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子どもの困り感に寄り添う支援ツールの実践例と評価Practice model

子どもの困り感に寄り添う支援の考え方

なぜ困り感を持つ子どもの評価なのか

   子どもが「今、何に困っているか」、「なぜ困っているのか」を明らかにした上で、支援が必要かどうかを見極める必要があります。ひとりひとりの子どもの状況や発達過程を踏まえた適切な保育を行い、子どもの健やかな育ちを保障することが、専門職の担う役割です。


   決して忘れてならないのは、このような「子どもの困り感」に注目するのは、レッテルを貼るためではない、ということです。子どもが支援を必要としているかどうかを見極め、必要な場合には子どもと保護者に適切な支援を届けることが最大の目的なのです。

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評価ツールの活用法

  「子どもの困り感に寄り添う支援ツール」の記入を終えたら、チェックした項目ひとつひとつから、何らかの診断名につなげる必要はありません。背景要因を考慮しながらチェックの入った項目の傾向を把握することが大切です。記入者だけで判断せず、子どもを理解する実践経験の長い専門職に相談するなど、複数の目で傾向を探り、適切な対応を考えていきましょう。

   しかし、通常このようなアセスメントは心理や医療領域の専門職が専門であるため、実践の場のみで、その傾向や対策を考え出すことには限界があることを理解しておく必要があります。ひとつの機関にとっては限界でも、地域内には適切に対応できる他の専門機関があります。他機関との連携により、子どもの育ちに必要な支援を確実に提供することが求められます。

子どもの困り感に寄り添う支援ツール活用の流れ


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実践事例

困り感を持つAちゃんの事例

 2歳になったAちゃんは0歳からずっと園に来ていた。特に小さく生まれたわけでもなく、出産時のリスクも見当たらず、お母さんも気のいいまじめな人で、家庭に問題があるようにも見えない。ただし、もともとおとなしくて、音や光に対する反応が弱く、よく眠る赤ちゃんで、他の子どもに比べてゆっくりしている印象だった。1歳を過ぎてもなかなか歩かず、ことばが出るのも遅れていたがニコニコとしておっとりしていたために、あまりそのことが気にされることはなかった。
  ところが1歳6か月児健診に行ったところ、筋肉が柔らかい、まだ歩行が不安定だ、指差しやことばがはっきりしないということでチェックされた。そして地元の児童相談所で発達に関する精密検査を受けて、「全体的に発達が遅れている」と指摘された。地域の母子保健センターで行っている母子教室に参加するように勧められたが、その時間帯はお母さんの仕事があるために参加できない。お母さんは発達の遅れを指摘されてから急に不安になり、これからのことを案じて密かに悩んだ。Aちゃんのためになることは何でもしたいと思ったが、経済的にも仕事をやめるわけにもいかずに困りきって園に相談に来た。そこで園は専門家と相談をして、少しずつでもいいのでAちゃんのためになることを模索していくことになった。
 まず、動くことがあまり好きでなく、どたっとすわっていることの多いAちゃんには、できるだけ自分から動きたくなるような環境を整えた。外遊びには先生ができるだけ手をつないで連れ出す、手先を使うおもちゃも与えるが、自分から取りに行くようにする、リズム遊びや体操を増やしていくなど、身体を十分に動かしながらいろいろな刺激を取り入れることに主眼を置いた。また、他の子どもたちからやさしくことばかけをしてもらう、先生のひざの上で絵本を読んでもらうなど、コミュニケーションや人との気持ちの交流にも注意した。
 このようにしていくことで、Aちゃんは他の子どもよりはゆっくりではあるが、以前にも増して活発で意欲的になっていった。ことばも増えて簡単な会話ができるようになってきた。3歳児クラスになって担任の先生の数が減ったときに障害児保育対象児となって、Aちゃんのサポート役の加配の先生がつくことになった。

<解説>
 個人によって発達の進み具合はさまざまです。その個人差を理解しつつも、他の子どもに比べてある一定以上遅れが認められる場合は、周りの環境をその子どもの発達をより促していくようなものに変えていく必要があります。まずは、遅れがあるようにみられる「困り感」をチェックすることにより、その子どもの様子を確かめることができます。また、乳児、1歳半、3歳児健診などはとても有効です。発達の遅れが大きい場合には、保健所や児童相談所などで検査を行うことが多いです。
 その後の対応としては、親子教室、言語やそのほかの訓練などに通うことがありますが、仕事を持つ保護者はこれが難しいことも多いです。そのため園と協力しながら園の資源を使ってできるだけ発達を促す働きかけをすることとなります。自治体にもよりますが、担任の人数配置が変わる3歳児クラス以降は、巡回相談や加配保育士をつける障害児保育制度を実施しているところがあります。

困り感を持つBちゃんの事例

 3歳児のBちゃんは園が好きで毎日同じ時間にきちんと登園する。活発で、利発な印象だが、とにかく園内のすみずみにまで出没する。特に園長室が好きで、そこに来てはパソコンを器用に操作している。声をかけても視線を合わせずに無視することが多いが、気に入った先生に自分から話しかけてきたり、手をつないで連れて行こうとする。教室のなかでみんなと一緒にすることが苦手で、部屋から出られないときは先生の机の下にもぐりこんで、耳をふさいで独り言を言っているときが多い。ブロック遊びは得意で他の子が作れないような難しいものを作ったりするので他の子どもたちも一目置いている。小食で給食は決まったものしか食べないが、好きなものだけは他の子の分まで食べてしまう。歌はうたうけれど、他の子どもたちと会話はしない。先日の遠足は、いつも使っているかばんがリュックサックになったことでパニックになり行くことができなかった。
 その後3歳児健診で、多動な面、人との関係やコミュニケーションの取りにくさがチェックされて、子ども専門病院で広汎性発達障害(自閉症)と診断された。療育施設や療育グループ、言語その他の訓練などを勧められたが、結局お母さんの仕事の都合もあり、園に在籍しながら週1日だけ早引きして、言語訓練に通うことになった。園のほうも巡回相談に来た専門家のアドバイスを取り入れ、できるだけBちゃんが安心できる環境と楽しく生活できる場面を多く提供しようということになった。
 広汎性発達障害の子どもは、視聴覚、皮膚感覚、味覚などに異常な感覚を持つこともあるので、できるだけ強い刺激や急激な変化は避けるとともに、落ち着ける場所を確保した。園長先生の部屋はBちゃんの憩いの場として残し、教室がうるさいときの休憩に使った。毎日の日課はできるだけ変更せずに行い変更する場合はしっかり予告をした。ことばだけの指示を少なくして、絵や身振り、モデルを使ってゆっくりと伝えるように工夫した。設定遊び場面では、Bちゃんの得意な製作を多くして、他の子どもたちと交わりながら楽しめること、できたものを認め合える機会を作った。このようなことを進めるうちにBちゃんは教室から勝手に出たり、机の下にもぐることもなくなり、他の子どもたちと行動を共にすることが増え、表情も柔和になってきた。ことばも少し増え、ごく簡単な会話もできるようになった。園が好きなようで登園しぶりはまったくない。

<解説>
 困り感を持つ子どもは、その個性ゆえに子どもたち集団のなかでうまくやっていくことに苦労します。子どもはいろいろ経験し、学習しながら成長していくものですが、なかなか変わりにくい面があります。特に発達障害といわれる子どもの行動特徴は、本人の努力やしつけがなっていないと誤解されやすく、なかなか改善されにくい面があります。周囲に理解されないといじめや叱られる原因となり、本人はどんどん傷ついていき、自信を失ってしまいます。
 できるだけ早い発見とできるだけ生活しやすい環境を提供することが重要です。Bちゃんも早く発見され、療育だけでなく、園での環境調整によって行動の改善と成長発達の促進が実現しました。
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