根拠に基づくツール活用法How to use the tools
根拠に基づく実践ツールの活用法
発達評価ツール、社会的スキル評価ツール、子どもの困り感に寄り添う支援ツール、育児環境評価ツール、保育教育環境評価ツールなどのツールを、「実践でうまく使う」にはどうしたらいいのでしょうか。
ツールを使うと、独りよがりではなく、みんなで「確実に」ベストの実践を実施する手助けとなります。子どもと保護者にはよりよい実践を、専門職には高いプロの技術をもたらすことになります。プロ魂・プロ技の獲得に向けて考えてみよう。
子どもの発達を保護者と共有する
育児相談に活用する事例
Aちゃん、2歳女児、幼稚園の園庭開放を利用している在家庭の子ども。
2歳になってもなかなか卒乳できず困っている。気にいらないことがあれば、すぐに泣いて駄々をこねる。昨夜、無理やり卒乳させたところ、激しく泣き、父親からあまり泣かせると声がかれると言われた。激しく泣かせてものどは大丈夫だろうか。と母親が心配して電話をしてきた。
離乳から卒乳の過程は、母親にとって大きな不安となる場合も多いでしょう。上記事例を文章でだけ読めば、いかにうまく卒乳できるかの援助方法を考えれば良いようですが母親の真の主訴は何でしょうか。
●主訴をつかむために3つのツールを活用してアセスメントしてみましょう。
(1)発達評価ツール
子どもの発達を把握する。年齢に応じた発達があるか。
(2)育児環境評価ツール
必要な項目を会話の中で活用し、家庭の状況を把握する。
(3)保育教育環境評価ツール
システム理論に基づき、多面的に子ども、家族、環境などを考え、援助に活用する。
本事例の検討
卒乳に対する不安や子どもの耳を気にするトピックスから始まった相談ですが、父親に対する思いが多く語られていました。母親のみの聞き取りではあるが、家族間の役割分担やコミュニケーションの状況をおおむねつかむことができました。
(1)家族間のコミュニケーション
家族関係図から見えるもの→家族関係図を作成することで、家族の現状や家族間のコミュニケーションを整理するよう心がけました。
(2)家族の強さを考える
母親の話を受容しながら、家族の問題解決能力を支援するエンパワメントの視点から、「家族の持つ強さ」を考えてみた。
1)子ども自身
・子どもに大きな健康上の問題はない様子。
2)家族
・母親の子どもへの愛情。
・この子の良さを父親に知らせたい。一緒に子育てをしていきたいという前向きの感情。
・父親は子どもの接し方が上手くないが、かわいがろうとしてる。子育てには関心がある。
3)身近なサポート
・実家の母親と育児の話ができる環境にある。
・育児書を読んでいて情報が入る環境にある。
・子育て家庭との交流があり、身近に子育てについて語り合う友人がいる。
家族の持つ力がさらに発揮できるよう支援することが、専門職にとって重要でした。
育児相談にとって、記録をとることは必須です。虐待など、重い事例ほど必要ですが、先ずは日々の実践での記録方法を身に付けることが大切です。記録を取り、一人ではなく必ず専門職間で問題を共有すること、主任、園長に報告することが必要です。
3つのツールによる柔軟な視点
本事例は子どもの相談に始まり、夫への不満、自分の育児方針、最後に子ども、と話の流れが変化してきました。家族成員の関係性の問題である場合、子ども、父、母を一人ひとり見つめる視点と、家族の関係性や家族を見つめる視点を持ち、相談者の話を聞きながら、視点を変化させていく柔軟性を持つことは重要です。 特定の個人に視点が集中してしまうと、家族への援助には発展していきません。一方家族の関係性や家族の機能ばかりに焦点を当てていては、相談者の納得できる援助は期待できません。両方の捉え方のバランス感覚を養うことが、専門職には求められるでしょう。